頚椎変性疾患の治療について
理事長特別補佐監兼執行本部長 松島 忠夫
頚椎後縦靭帯骨化症、頚椎症、頚椎椎間板ヘルニアの3つが頚椎変性疾患です。
症状の程度はさまざまで、軽い頚部の違和感ぐらいのものから、脊髄障害のための手指の運動障害や歩行障害を起こすこともあります。頚椎変性疾患の治療は保存的治療(手術以外の方法)がまず行われますが、保存的治療で改善せず、症状が進行するものに対しては手術治療を考えることになります。
頚椎疾患の症状としては神経根症と脊髄症があります。神経根とは頚部脊髄からでる枝のことでこれが障害されると、普通片側の上肢のしびれや痛み、肩、肩甲骨部の痛み、上肢筋力低下のため上肢挙上障害や手の動作障害などが起こり、これを神経根症といいます。 脊髄症は何らかの病変により脊髄が圧迫などで障害され、両手、両足のしびれや巧緻運動障害(細かい動作ができなくなる)や歩行障害(早く歩けない、足の上がりが悪い、不安定歩行、など)が生じ、進行すると歩行困難になったりします。左右に対称性に症状がでますが、病変によっては左右のどちらかに強く起こることもあります。
手術治療についてですが、多数の手術をしてきた脊髄外科医師の手術書には以下のように記載があります。『手術によってしびれや運動障害のような症状がきれいさっぱり取れることを期待して外来に来ることが多いが、それほど手術はバラ色ではない。手術の目標は症状の改善ではなく、症状の進行停止であることを理解してもらう。 中には症状が明らかに改善する例もあるが、多くはかなりの症状が残る。しかし、ゆっくり症状が進行したり、転倒によって突然寝たきりになったりする危険を回避できる。』
私が手術を行ってきた方々もたしかに上記のとおりのことを実感しています。術前に上記に近いことを説明し、現在困っている症状が少しでもよくなるといいなと、思って手術に臨みます。
また手術には手術合併症があります。これが起こるとなかなか厳しい状況になることがあります。脊髄圧迫がひどい例などでは、手術で減圧がなされ、同部の血流改善が脊髄組織に悪影響を与える可能性もあり、その際は術前の症状が悪化することもあります。また術後感染も起こるとその後の治療管理がたいへんになります。 その感染の頻度は約1%といわれています。他には静脈血栓症や出血に関するものです。頚椎手術はほぼ100%を手術用顕微鏡を使って行います。そのため安全性は高いものの、上記の手術合併症を起こさないよう細心の注意を払って行っています。
手足のしびれや痛み、動作障害、歩行障害などは日常生活で支障のでる症状です。それらは頚椎疾患の可能性があります。外来受診でご相談ください。