がん医療における遺伝子情報の活用について-その3-
脳神経外科顧問 片倉 隆一
がんの検査には血液中の腫瘍マーカー測定、CTスキャンやMRIなどの画像検査、内視鏡等を用い組織の一部を摘出するいわゆる生検などが一般的です。またこれまで説明してきた遺伝子検査は、生検や手術により摘出した組織標本を用います。 がんの早期発見につながるがん検診は、現時点では従来のがん検診を勧めますが、いろいろな意味で負担は生じます。ところが最近「リキッドバイオプシー」という新しい技術が出現しました。 がん細胞は増殖する過程でがん特有の物質を血液・尿・唾液などの体液中に放出します。この体液中のがん由来物質を検出し、がん診断や治療に利用しようというのがリキッドバイオプシーすなわち血液などの液体を用いた生検です。 このがん由来物質には、例えば血液では血中循環腫瘍RNA、血中循環腫瘍DNA、細胞外小胞(エクソソーム)、腫瘍タンパク、血中循環腫瘍細胞などがあります。 ただこれらの物質は極めて微量であることが多く正確な情報を得るには高度な技術が必要です。また放出された物質が少なすぎると測定できない欠点もあり、測定の感度化を高める研究が進行中です。 ただ採血など負担の少ない手法で検体が得られますので何回も繰り返し検査できる利点があります。
このリキッドバイオプシーがどのように利用されようとしているのかといいますと、まず1つ目は、がんの早期発見・がん検診が採血や唾液などで可能になります。現時点ではすべてのがんを見つけることはできませんが、現在10数種類のがん診断ができると言われています。 ただこの技術で肺がんがあると診断されたのですがあまりに小さすぎて画像診断でがんが肺のどこにあるのか発見できないという話もあります。2つ目は、手術などの治療後がん細胞が残存していないかの確認に利用できます。3つ目は、これまで行った治療の効果の確認や、再発を早期に発見することに利用できます。 4つ目は、がん細胞はときに治療に用いた薬剤へ抵抗するために遺伝子変異(薬剤耐性変異)を起こし治療から逃れ再発してきます。この遺伝子変異をこの技術で知ることで、患者さんに最も有効な薬剤を新たに選択することが可能となり治療成績の向上に役立ちます。 このように血液や唾液でがん検診ができるという画期的な検査ですが、極めて高度な技術が必要なことから、現在このリキッドバイオプシーの案内をしている施設は県内では東北大学病院と宮城県立がんセンターとなっています。 例えば県立がんセンターでは、ホームページの部門紹介から入りがんゲノム医療センターにアクセスしますと利用のための手順や費用など詳細な説明がありますのでご参照ください。
がんの遺伝子研究の成果についてお話してきましたが、がんにおける遺伝子情報ががん医療上不可欠なものであることがお判りいただけたでしょうか。この技術はがんにかかわらず他の病気でも利用され、すでに様々な分野で研究が進んでいます。
今、様々な病気において遺伝子情報を活用することで、患者さん一人ひとりに最も適した治療法が選べるすなわち個別化医療の時代を迎えております。