温故知新
循環器内科科長 密岡 幹夫
「敵に塩を送る」は長い目で見ても正しい戦略
上杉謙信が武田信玄に塩を送った「敵に塩を送る」という故事があります。人が生きていくためには塩（塩分）が不可欠です。では、体の中の塩分が多過ぎるとどうなるのでしょうか？多すぎる塩分は腎臓が尿として体の外に出してくれ気づかないうちに調整されています。 そのため、すぐに体の調子が変わることはありません。しかし、多くの塩分を慢性的に出し続けていると腎臓は疲れてしまいます。血液中の塩分が増加し、それを薄めるために血管内に引き込まれる水分が増え、結果として血管内の圧が上がり血圧が高くなってしまいます。
減塩は三文の徳
血圧はよほど高くならない限り自覚症状が出てきません。そのため塩分を控えようとなかなか思えないのです。でも、塩分を控えたら長生きできると言われたらどうでしょう。2016年に発表された研究によると、食塩の摂取量を1日当たり1.4g減らしただけで、収縮期血圧は2.7mmHg、拡張期血圧は1.1mmHg減少しました。 わずかな変化に思えますが、高血圧の合併症である「脳卒中」や「虚血性心疾患」等による死亡率が、40％以上も減少しました。1日たった1.4gの減塩で、血圧を下げることができただけでなく、命に関わる病気を防ぐことができたのです。
減塩のしすぎ？
塩分が少なければ少ないほど、死亡率が減少するという研究がある一方で、1日4g未満にすると死亡率が上昇するという研究もあります。塩分を減らしすぎると良くないか、については医学的な結論が出ていません。 しかし、1日4g未満という目標値は達成すること自体が相当困難なレベルなので、普段の食事で減塩のしすぎを心配する必要はありません。（日本高血圧学会は1日6g未満をすすめています。令和1 年の日本人の食塩摂取量は10.1gです）
美味しくない？
ハーゲンダッツ、とんがりコーンのブランドを保有している合衆国の巨大食品企業が朝食用シリアルの塩分を徐々に減らしていったのですが、売り上げは変わらなかったそうです。 減塩＝美味しくない、は思い込みの要素が大きかったようです。先日、食塩不添加のポテトチップスを買って食べてみました。素材由来の食塩が1 袋あたり0.04～0.13g含まれてはいましたが、同メーカーの普通タイプ（1g弱含有）に比べるとごく少ない量でした。とても美味でした。
豊富な減塩食品
大手通販サイトには減塩をうたった調味料、缶詰やお菓子などがたくさん並んでおり、見ると楽しいです。どうしても塩味が恋しいという方は食卓でごく少量の塩を振ってアクセントをつけるのも一法です。 ハーブ、こしょう、ニンニクや塩の入っていない調味料で風味を加えることも良いですし、血圧を下げる効果のあるカリウムを含む果物や野菜を一緒に摂取することも良いです。（腎臓が悪い方のカリウム摂取は注意が必要です）
温故知新な話、塩
検診で蛋白尿が（±）となったことを契機に、私は減塩を心がけるようになりました。巷にあふれる健康食品やサプリに興味を持ったこともありましたが、減塩の効果を明らかにしたデータを知ってからは、それらを見ることはなくなりました。 減塩は安価な方法でもありますので、その大切さを再認識して今日から減塩に努めてみてください。
