鼠径ヘルニア(脱腸)について
外科医長 木村 卓也
ヘルニアとは、身体の臓器や組織の一部が組織のすき間を通って本来あるべき場所ではない部分にはみ出している状態です。例えば、椎間板ヘルニアは、椎体(背骨)の間にある椎間板が変形して異常に突出した状態で、進行すると近くにある神経を圧迫して痛み・しびれなどの症状を引き起こします。
脚(あし)の付け根のあたりを鼠径部といいますが、この部位の筋膜の間からおなかの中の腹膜が皮膚の下に出てきて、鼠径部が腫れてくる状態を鼠径ヘルニアといいます。出てきた腹膜の中に腸の一部が脱出すれば、脱腸です。
子供では先天的なものが多いのですが、大人の場合には組織が弱くなることが原因とされています。加齢(高齢)や腹圧のかかる動作を繰り返すことなどにより筋肉や組織の脆弱化が引き起こされ、臓器を支える力が弱くなることで発症すると考えられています。鼠径ヘルニアになりやすい人は、お腹に力がかかる作業をする人以外に、便秘や前立腺肥大のためトイレで力んだりする人、喘息で咳き込むことの多い人などです。
患者数は年々増加しており、年間15万人前後の方が治療を受けていると言われています。このうち、男性が約8割と多くを占めています。
鼠径ヘルニアは、初期には痛みなどの症状もあまりなく、日常生活に支障を来たすこともないため、病気の部位から恥ずかしいと受診をためらう方もいます。しかし、自然に治ることはなく、症状が進み、飛び出した腸が元に戻らなくなる嵌頓(かんとん)という状態になると、腸閉塞となり、腸への血液の流れが悪くなって腸を切除したり、場合によっては生命にかかわることもあります。
鼠径ヘルニアは、現在の医学では手術以外に治す方法はありません。
手術は、鼠径部切開による手術と腹腔鏡による手術があります。いずれの場合でも、メッシュという補強材を使用します。当院では、お腹のキズの小さい腹腔鏡による手術を主に行っています。キズが小さいので、痛みも少なく、社会生活に早期に復帰できることを目的としています。
鼠径ヘルニアが疑われるような症状がありましたら、他の病気の可能性もありますので、恥ずかしがらずに早めに外来を受診して下さい。
いずれのヘルニアでも、
治療法は同じです。