老化は自己責任ですか？
リハビリテーション統括センター長兼脳卒中後遺症センター部長 今泉 茂樹
古くより未富先老（富む前に老いる）、少年易老学難成（老いやすく学問の道は遠い）と言われ、人は誕生するとともに成人を過ぎればあとは自然に老化に向かっていきます。日本語は難しく「自己責任」（self-responsibility）と言う言葉は、一般には危険であることが事前に予測できたにもかかわらず、危険を顧みずに敢行すること。自分の行動の結果として危機に陥ったのなら、自分で責任を負うべきであるという考え方です。解りやすいのが、日本国の許可なしにシリアなど紛争地域に入り人質になった場合でしょうか。私も病院の駐車場で当て逃げされ、「この言葉」を事務の方から公的な場で言われたことがありますが、言葉の使用法としては違うのではないかと考え始めたわけです。しかし自己責任という考え方は、実は私達が自分の健康を維持する上で、さらに老化を予防することも含めて、他力本願ではなく自分が必死になって自らを守るべきものだという気持ちは高めてくれます。
プロの年齢制限が日本には多く、将棋界（26歳）、競馬の騎手（21歳未満）、一般の求人広告も「三十歳まで」と記されていることが多いようです。世界においても、一流音楽家への道は更に厳しく、多くの世界の音楽コンテスト（ショパン国際ピアノコンクール、浜松国際ピアノコンクールなど）も三十一歳以下のようです。美麗さ、情熱、音楽性、それらを競うのに宜（むべ）なるかなと感心します。国が老人雇用を進めようとしても、年齢不問の能力優先の求人は15%前後のようです。芥川賞、直木賞には年齢制限がありませんが。
私は個人的には遅咲きでもよいと思っています。ノーベル賞をねらわなければ医学や科学、文学はそう思います。音楽も趣味なら許されるのでは。絵画の遅咲きでは浮世絵の葛飾北斎は代表格で89歳まで描いていました。伊藤若冲は40歳で隠居して絵を書き始め84歳没まで書き続けた由。文豪ゲーテは84歳没年まで「ファウスト」を書き続け、妻に先立たれた1821年74歳の時にマリーエンバートという湯治場でウルレーケ某という17歳の少女に、（好悪の別は抜きにして）熱烈な恋をしたと書かれています。この頃のゲーテの思想は「諦念」であり、最後の言葉が「もっと光を！（Mehr Licht!）」でした。
そこで、タイトルに戻りますが、このように長生きして活躍するためには、やはり老化も自己責任くらいの強い気持ちで防ぎ、生きていかなければいけないものかもしれません。
