手術になったら、食べたり飲んだりしちゃいけないの?・・・
麻酔科医長 宮﨑 未来
「手術前の日は、食べたり飲んだりしちゃダメなんだよ」という話を聞いたことがあるかもしれません。「胃や大腸などの消化器の手術をするわけじゃないのに、どうして我慢しなくちゃいけないの?」などと感じたことはありませんか?手術にあたり麻酔をかけることになりますが、この麻酔は普段私たちが寝ている睡眠とは違い、手術中、切ったり縫ったりしても目覚めないくらい深い眠りになるため、全身麻酔を施行すると、患者さんご自身で通常通り呼吸することができなくなります。つまり、呼吸が停止してしまうのですね。
ですから、手術室に入室するとまず、心電図や血圧計、サチュレーション(体の中の酸素がどのくらいあるか知るためのモニター)などを付け、測定し患者さんの状態を把握します。これらのモニターにより、術中の患者さんの状態を知り、状態に合わせて適宜、薬の量を調整します。それから、体に十分な酸素がいきわたるよう酸素のマスクを当てますので深呼吸をしていただきます。十分な酸素がいきわたったことが確認出来たら、点滴から眠くなるお薬が投与されます。お薬が入ると数十秒で深い眠りに入ります。
そうすると呼吸が止まってしまうので、口や鼻から気管内までチューブを通して、そこから酸素や吸入麻酔を投与します。このチューブは手術の間、体に酸素を送る大事なものですので、呼吸だけでなく命を守る大事な大事なチューブです。
このチューブを通すには、喉頭鏡という特殊な機械を使用し、舌をよけ声帯(気管への入り口)を見えるようにして確実に気管内へチューブを留置します。
ここまで手術へ向けて、呼吸や循環を安定させ、手術に耐えうる麻酔薬を調整できると、手術が始まっていきます。
では、最初の疑問に戻りましょう。どうして手術前に食事制限がされるのか?もし、何かを食べたり飲んだりして胃がパンパンの状態で手術に臨んだ場合、胃が空っぽの場合に比べて嘔吐するリスクが非常に高くなります。私たちが起きていたり夜寝ている状態であれば、吐きたくなったら起き上がったり、前かがみになったりと嘔吐に備えて動くことができますが、麻酔がかかった状態では身動きが取れないため、吐いてしまったものがそのまま気管に入ってしまいます。そうなると、誤嚥性肺炎を引き起こしてしまうのですね。そのため、手術の際には、手術時間や内容により食事制限がされるのです。
麻酔・手術を受けるとなったとき、もしあなたが不思議だなぁと感じたことがあったらお気兼ねなく麻酔科に声をかけてください。そして皆様が安心して手術に臨んでいただけたら私たち麻酔科医は幸いです。