顔面神経麻痺について
副院長・救急センター所長 赤間 洋一
皆さんは『顔面神経麻痺』という病気を御存じですか。顔の右半分または左半分がゆがむ病気で、飲んだものや食べたものが口角から漏れたり、まぶたを閉じることが出来ず涙が出たりします。また、顔面筋の低下だけでなく味覚障害や耳鳴りを伴うこともあります。
かの有名な松居一代さんが若かりし頃患った病気です。御本人の話では発症してから2ヶ月間病院に入院して治療を受けましたが全く良くならず、医師からは完治しないだろうと言われたそうです。ところが、偶然中国から来た鍼灸師の先生と出会い、針治療を受けたところ1ヶ月で完治したそうです。また、北野武さんも顔面神経麻痺になっております。今から23年前原付バイクで運転中転倒し頭部を強打したのが原因です。一時は生死をさまよったそうですが、幸い奇跡的に回復し以前の様に活躍されております。しかし、今でも右側の顔面神経麻痺が後遺症として残っております。
松居一代さんと北野武さんは同じ顔面神経麻痺ですが、発症原因は全く異なります。顔面神経麻痺の原因は大きく5つに分類されます。1つは特発性顔面神経麻痺です。ベル麻痺とも呼ばれ、突然発症します。朝起きて顔面の異常に気づくことが多いです。耳介後部の痛みを伴うこともあります。発生頻度は顔面神経麻痺の大部分(80%程度)を占めます。2つ目は帯状疱疹ウィルスによるハント症候群です。顔面の麻痺以外にも頭痛、耳痛、耳内の水疱形成を伴います。発生頻度は10%前後です。3つ目は腫瘍性です。脳内腫瘍と脳外腫瘍(耳下腺部)があります。症状は徐々に進行し麻痺以外にも難聴などの症状を伴います。CTやMRIの検査が必要です。4つ目は脳卒中に伴う顔面神経麻痺です。麻痺は突然発症しますがほかの神経学的異常(手足の麻痺や嚥下障害など)を伴います。5つ目は外傷性です。頭部外傷や顔面の外傷に合併します。
次いで顔面神経麻痺の治療ですが、保存的治療と外科的治療があります。外科的治療は顔面神経減荷術と言って神経の浮腫による圧迫を解除する方法で、急性期の治療としてはかなり有効ですが、本治療を行っている医療機関は全国的にも限られており保存的治療が一般的です。
保存的治療では先ず抗炎症剤(ステロイド剤)の大量投与を行います。ステロイド剤は副作用がありますので1週間程度に限定されます。また、神経再生のためのビタミン剤や循環を改善する薬を使用します。リハビリ療法も必要な治療です。リハビリは病院だけでなく、自宅でも行う必要があります。当院のペインクリニック外来では症状の強い方や回復が悪い方には星状神経節ブロックを行っております。
顔面神経麻痺の予後ですが、特発性麻痺(ベル麻痺)では治療により3ヶ月から6ヶ月ほどで回復します。しかし、帯状疱疹に伴うハント症候群では回復が遅れ2年から3年かかることもあります。麻痺が残ることもあります。
もし、顔面の異常に気づきましたらペインクリニック外来を受診して下さい。