ドイツ International Neuroscience Institute留学記(1)
副院長・脳神経外科部長・脳卒中センター長 西村 真実
INI:脳の形をした病院
2016年5月より12月までドイツ International Neuroscience Institute(INI)に留学させていただきました。
これまで私は、脳卒中の外科治療を主として脳神経外科診療に携わって来ました。他施設での治療応援を含め脳動脈瘤根治術は指導を含め約800例(執刀450例)を経験して来ましたが、その中で特に、椎骨脳底動脈系の大型~巨大脳動脈瘤治療の困難さを痛切に感じていました。また常に、今後の脳卒中外科治療において、血行再建術(バイパス術)と頭蓋底手術(深部の頭蓋骨を削除して準備する手術)の修得が必須と考えていましたので、頭蓋底手術の世界的権威であるHelmut Bertalanffy教授がいるINIを留学先として選びました。
INIは2000年に脳腫瘍(特に聴神経腫瘍)手術で高名なM.Samii先生が設立された脳神経外科専門病院で外観は脳の形をしています。2010年からはBertalanffy教授が赴任され、私は先生の元で学ばせていただきました。
週のスケジュールは1日4、5件、1週間で約20件以上の定期手術が組まれており、連日脳腫瘍や脊椎脊髄の手術が行われています。
Bertalanffy教授は頭蓋底手術や脳幹部海綿状血管腫摘出手術(手術困難な場所の手術)で世界的な権威です。日本では、脳外科顕微鏡手術は術者が座って手術をすることが多いのですが、先生は体幹が強く立って手術をします。長時間にわたる手術にもかかわらず、常に両手先の動きは非常に繊細なものでした。ただし、座位(患者さんが座った状態で行う)手術で後頭蓋窩(頭の後ろ側)からさらに脳幹(脳最深部)にアプローチする際には、見上げる視野を確保する必要があり座っての手術になりました。
日本では、近年行われなくなった座位手術ですが、頭の後ろを開ける後頭蓋窩手術では有用であり、現在は改良されINIでは頸椎手術も含め常に使用されている体位でした。これを日本に導入すべく、麻酔法やモニタリングなども学びました。小脳が重力でさがり手術がやりやすいこと、術野の出血が術野外に自動的に流れ出ることで、長時間の後頭蓋窩手術で非常に有効であることを実感しました。 (9月号へ続く)