非結核性抗酸菌症について
呼吸器科科長 座安 清
宮城県南部の田舎に中年の女性が住んでいました。庭には池がありカルガモやアヒルを数羽飼っていました。室内にはインコを2羽飼っていました。時々アヒルと一緒に布団に入り眠ることもありました。あるとき咳や痰が出るようになり呼吸器科を受診しました。20代の時に脾臓摘出術の既往がありました。胸部CTにて空洞や粒状陰影や気管支拡張が認められ肺結核が疑われました。しかし喀痰検査では非結核性抗酸菌症のアビウムが検出されました。治療が行われましたが徐々に病状は悪化し5年後には在宅酸素療法になりました。これは極端な例ですが近年肺結核の減少に伴い非結核性抗酸菌症の存在感が増しています。
非結核性抗酸菌症は名前の通り結核菌以外の抗酸菌による病気です。100種類以上が知られていますが人に感染を起こすのはアビウムやイントラセルラーやカンサシがほとんどです。結核菌は人から人に感染して生き残る戦術を取っている菌ですので感染力が強力です。一方非結核性抗酸菌は土や水の環境中に存在する菌であり人から人への感染はありません。昔は鳥を介して感染するとも考えられた為アビウムはトリ型菌と言われたこともありました。感染力は弱いですが家庭菜園や庭いじりの好きな中年女性に多い傾向にあります。痩せた高齢男性の感染例も増加傾向にあり、肺結核の治療後に感染する例も認められます。結核は毒性が強いですが非結核性抗酸菌は弱毒性ですので数年以上症状が変わらないことが多いです。
初めのころは無症状のため健康診断で胸部異常陰影として指摘されることもあります。病状が進むと咳や痰が出るようになり血痰も出たりします。発熱や体重減少も起こり、ひどくなると呼吸困難も出現してきます。胸部X線や胸部CTでは粒状陰影や空洞や気管支拡張が認められます。喀痰の検査で2回以上非結核性抗酸菌が検出されれば診断は確実ですが弱毒菌ですので菌が検出されないこともあります。
無症状であれば無治療で様子観察としますが症状が出現し、陰影の悪化が認められれば治療致します。治療は1年半以上継続します。菌が完全に消失することはほとんどないため再発することが多く経過観察は長期になります。