体調を整える大切なホルモンのお話
脳神経外科科長 松山 純子
今回は少し、ホルモンのお話をさせていただこうと思います。と言っても焼き鳥屋さんの香ばしいホルモンではありません。人の体から分泌され、人体の生命維持や体の調子を整えるためになくてはならないホルモンのお話です。脳神経外科で扱う臓器としては、脳下垂体という頭部の中心部に存在し、大きさはそら豆ひとつぶ程度の小さな臓器がありますが、様々なホルモンの働きをコントロールして生体の機能維持を司っています。成長ホルモンといって骨の伸長や筋肉の成長を促進し肝臓や筋肉、脂肪などの臓器で行われる代謝を促進するホルモン、甲状腺を刺激し、甲状腺ホルモン分泌を促す甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質を刺激し、コルチゾール(体のショックに耐えるホルモン)分泌を促す副腎皮質刺激ホルモン、性腺刺激ホルモン(卵胞刺激ホルモン・黄体形成ホルモン)、プロラクチン(乳汁分泌ホルモン)、抗利尿ホルモン(尿が出すぎるのを止める)などです。この下垂体に腫瘍ができるとホルモンの足りない症状が出たり、逆に特定のホルモンの過剰症状が出ます。
成長ホルモンが過剰の場合、小児期に発症すれば身長が2m以上にもなる巨人症、大人になって発症すれば末端肥大症といって顎突出など特有の顔貌、手足の末端が肥大、心臓病、高血圧や糖尿病を合併しやすくなります。逆に最近注目されてきた病態は成人成長ホルモン分泌不全症です。一昔前までは、成長ホルモン不足は小児でしか問題視されていませんでしたが、成人にも成長ホルモンが大切なことが、わかってきました。成人の場合は体脂肪の増加と筋肉組織の減少、骨密度の低下が起こります。全般的に疲れやすくなり活力も低下します。成長ホルモンは、脂肪を分解したり、肝臓で作られたコレステロールの取り込みを促したりすることにより、最終的には血中のコレステロールを低下させる働きがあります。成長ホルモンが出なくなると、心臓の機能が徐々に低下していき、心筋梗塞や脳卒中の前段階ともいえる動脈硬化が進み、生命の危険にまで及びます。ホルモン過剰の原因が下垂体腫瘍の場合は、鼻からの手術や薬物療法・ガンマナイフでの治療などがあります。ホルモン欠乏の場合は、ホルモン補充療法を行い、成長ホルモンの場合は注射をします。もちろん、動脈硬化性血管障害の予防には禁煙が第一です。