誤嚥性肺炎の話
呼吸器科科長 座安 清
当院呼吸器科には年間約270人の入院があり、そのうち46%は急性肺炎の患者さんです。急性肺炎の中で63%は誤嚥性肺炎です。誤嚥性肺炎は老人性肺炎とも呼ばれます。75歳以上の高齢者に多い病気だからです。当院の誤嚥性肺炎の平均年齢は84歳で、ほとんどが寝たきりの患者さんです。さらに老人保健施設からの紹介が大多数を占めています。誤嚥性肺炎の方の死亡率は33.2%です。
脳梗塞や認知症、パーキンソン病などの脳疾患患者で誤嚥性肺炎が多く見られます。脳梗塞などにより、大脳基底核から神経伝達物質のドーパミンが減少することでサブスタンスPという物質が減少し、咳反射や嚥下反射(食べ物が気管に入らないようにする働き)が低下することによって不顕性誤嚥(※)が起こります。はじめのうちは気管支炎ですが、時間が経つにしたがって肺炎になります。これが誤嚥性肺炎です。
誤嚥性肺炎は脳疾患に併発して起きる肺炎のため、点滴や抗生剤で一旦改善しても再発します。そのため予防が重要になってきます。家庭や施設での予防には、毎日歯みがきをして口の中の雑菌を減らす、食後に一定時間座った姿勢を保ってもらい胃液逆流を防ぐ等が大切です。さらに、歯ぐきをマッサージすることも嚥下反射を改善するといわれています。また、降圧剤のレニベースは咳の副作用があり、それを逆手にとって誤嚥性肺炎の予防のために使用されます。黒こしょうやトウガラシに含まれるカプサイシンはサブスタンスPを増加させ、咳反射や嚥下反射を改善します。そのため、黒こしょう貼付剤やカプサイシントローチが試みられています。脳血流改善剤もある程度有効です。
しかしながら予防にも限界があります。たとえ改善して退院できたとしても数か月後に再発するケースが多く見られます。1年の間に3回再発を繰り返すと亡くなられる方も多く、これは寿命がきたためと考えられます。東日本大震災では、沿岸部に位置していた施設の誤嚥性肺炎の患者さんが亡くなられたり、岩沼市より遠くに移動した影響もあり、2011年度は誤嚥性肺炎の死亡率が25.3%に低下しました。
長年寝たきりの高齢患者で誤嚥性肺炎を発症したら寿命と考えられますので、延命処置に関してあらかじめ家族で話し合いを持たれることをお勧めします。
※むせない誤嚥のことで、睡眠中等に唾液や胃液等が気管に入ってしまうこと。