神の手
院長 脊椎脊髄疾患診断治療センター長 水野 順一
いつからか神の手とかスーパードクターなどと言った言葉が、日本ではよく聞かれるようになりました。私の専門領域が脳神経外科ということもあり、神の手と言えば福島孝徳先生を思い浮かべます。その他にもいろいろな専門領域で何人もの先生が、神の手としてマスコミに取り上げられています。以前私も地方紙に取り上げられた時には、そのようなキャッチフレーズこそありませんでしたが、なんとなく恥ずかしい気持ちになりました。振り返って、神の手とかスーパードクターとはいったいどのような先生のことを指すのでしょうか？
近年各専門領域、例えば脳卒中専門医、脊髄外科指導医、血管内治療専門医、神経内視鏡専門医などと脳神経外科のなかでも数多くの専門医制度があり、今後も増加する傾向にあるようです。これらの先生は各臓器別（脳、心臓、肺、胃腸など）の専門医であることが前提で、さらにその中の一部の臓器、組織を集中的に治療するために、治療の質が高いことが要求されます。そのような専門家こそスーパードクターであり、現状では日本で提供できる最良、最新の治療が行えるものと思います。これらの地道に日常診療を行い、限られた時間の中で専門医試験に合格した先生こそ患者さんが最も信頼できる医師と思われます。当院でも多くの科の先生がこの専門医制度に合格した質の高い医療を、毎日来られる患者さんに行っています。現実はなかなかテレビや映画のような作られた虚構の世界とは違って、まだまだ克服されていない病気が星のごとくに存在します。医療には限界がつきものであり、完全は決してありえないものです。しかしながら患者さんは自分の大切な命を預ける医師、病院選択の際には、ぜひ専門医制度のことを考えてください。標準的な医療、合併症の少ない医療が現在では最良と思われます。神の手やスーパードクターはあくまでマスコミが先導して出来上がってきた言葉であり、そのような先生を追いかけるのではなく、身近にいるきちんとした先生を信頼して治療されることをお勧めします。マスコミより口コミとも言われるように、皆さんの周りできちんとした治療成績をだしている医師こそ本当のグッドドクターだと思います。
